夫につられて私がももクロファンになったわけ

モノノフ夫との出会いとももクロのファンとしての生活記録

「俺は、夏菜子だった」〜有安杏果卒業から夫が再生するまで〜

2018年1月。有安杏果ももクロ電撃卒業は、平和な新婚家庭だった我が家に衝撃と混乱と、お祭り厳禁的な自重ムードをもたらした。

卒業が発表された日、ツイッターのトレンドでそのニュースを知ったわたしは驚いた勢いのまま夫に「ちょっと杏果卒業するの?!びっくりなんだけどなんで突然?結婚?」

とミーハーな感想をLINEで送りつけたところ、その軽いノリが癇に障ったらしく、「今情報集めてるから黙ってて」と一喝された。

卒業は現実で、急な発表だったにしてはその理由は納得のできないものだった。普通の女の子になりたい、と。そして発表から約一週間後という唐突なタイミングで卒業ライブを行うことが後に発表された。

夫とわたしは何はともあれ彼女のラストライブに申し込んだが、倍率はかなり高く、抽選に外れた。ライブ当日はわたしたちが新居に引っ越す日だったのでわたしとしてはそれはそれで都合がよく、ライブの様子を一緒に自宅から生配信の動画でも見ればよかろうと思っていたのだが、夫はよほど行きたかったらしく、つてを辿ってどうにかチケットを入手した、、1枚だけ!!

新居で過ごす1日目に部屋に置き去りにされたわたしはやけ酒をあおりながらライブの生配信を1人で見た。なお、この件に関してわたしはまだ夫を許していない。

彼女の卒業からその後現在に至るまでには非常に突拍子もない展開もあり、いろいろ思うところがあるのだが、その点は今回は省く。10年近く5人のももクロを推していた夫が、唐突にメンバーの1人を失った悲しみとモヤモヤ感から完全復活した件について書きたい。

 

有安さんの卒業は、ファンだけでなくももクロメンバーも大いに打ちひしがれていたように思う。半年後に10周年という記念の時を控え、盛大に祝い、温かく歓迎されるはずだった。それに水を差されるようなかたちとなったのだが、残されたメンバーはそのことに関して、有安本人を責めることも泣き言を言うこともなく、笑顔で送り出すことに徹した。

ところが、卒業ライブで有安さん本人は一滴の涙も流さなかった。歌もダンスもいつもどおりキレがあり、完璧なものだったけれど、8年間過ごしたグループを卒業するというのにはあまりにもあっさりしていたのだ。他のメンバーは泣きながらこれまでの思い出語り感謝と激励を贈っているのに、その言葉で感動しているのはファンだけで、本人には響いていないように感じた。

リーダーの百田夏菜子は「あまりにも直接的すぎて言えなかったけど、本当は5人で10周年を迎えたかったよ」と、恨み言にならないように、でもあなたがいなくなることが本当に悲しいと精一杯伝えるように振り絞った言葉すらも、胸に届いた様子はなかった。

かわりに彼女から出た言葉は「ももクロは奇跡の5人と言われるけれどわたしはそう思ったことはない。わたし以外の4人とモノノフ(ファン)で5人のももクロだったと思う」という衝撃のものだった。

ももクロ時代の否定とも取られかねない言葉。

何かファンにはわからない裏事情があったのかもしれないがそれにしてもあんまりな捨て台詞だ。なぜそれを言ったのか、いったいどんな意味なのか、究極的にはわからないが、最後の日の言葉にしてはだいぶ後味が悪く、しこりが残る。

そんなわけで、突然の卒業ということだけでもなかなか消化できないだろうに、立つ鳥跡を濁…す的な卒業で、夫曰くライブ後の飲みは「お通夜みたいだった」とのことだった。

それから夫は未練たらたらの失恋のごとく、有安さんが新たに発信しはじめたインスタやツイッターを何か文句を言いながらも追いかけ続けた。

一方ももクロ陣営側は10周年に向けて淡々と勢力的に活動した。5人から4人になったことで、これまでの楽曲のパート割りやダンスのフォーメーションが変わるのは必須だ。体に染み付いているであろう歌やダンスを変えるのはどれだけ大変なのだろう。

そんなこんなで2018年5月に10周年記念ライブ「ももいろクローバーZ 10th Anniversary The Diamond Four -in 桃響導夢-」を迎えた。

わたしはその時、今回の10周年という記念のライブが、どうか失敗しませんように、ももクロの4人の歌にがっかりしませんように、と願っていた。その前の2月のバレンタインライブ、4人になって最初のライブでは、どうしても"有安の不在"を実感してしまうものだったし、4月の恒例野外ライブ「春の一大事」では、席がかなり遠かったことと、野外の音響システムがあまりよくなかったことで、歌がほとんど聞こえなかったのだ。だから今回のライブも不安だった。ファン歴2年そこそこのわたしの心より、ずっと応援してきた夫を含めたモノノフたちが、追ってきてよかったと思えるものになってほしい、ももクロの4人が10年の集大成と満足できるものになってほしい、でももしかしたら難しいかもしれない。どうか「やっぱり5人がよかった」と思ってしまわないように、と祈った。

 

蓋を開けてみれば、4人のライブは大成功だった。いったいどうやって歌とダンスを覚え直したのだろう。元から4人だったと言っても全くおかしくないものだった。

「ゴリラパンチ」という、有安杏果がメインパートを歌った曲がある。有安さんの太い声と声量があっての曲、有安さんのための曲と言える曲で、彼女以外には歌いこなせないと思っていた。下手に歌ったりしたら、有安さん推しだったファンから大顰蹙を買ってしまうだろう。

しかしその曲も歌った。メインパートの担当は

あーりんこと佐々木彩夏だった。有安さんの力強い声とは正反対にアイドルらしい可愛らしい歌声が特徴のあーりんが歌った新生「ゴリラパンチ」は、ものすごくよかった。前奏なしでいきなり始まる曲なのだが、歌い出した瞬間会場がどよめいた。「うそ!これ歌うの、しかも、あーりん?」という驚き。でもいざ聴いてみたら意外なほどにしっくりきた。全然あり!むしろいい!

有安さんの十八番だったこの曲を歌うことへのプレッシャーは相当だったはずだ。それにあえて挑戦し、自分のものにしたあーりんはすごい。わたしはあーりん推しではなかったけれど、ちょっと涙がでた。きっとファンのために敢えて歌ったんだろうと思った。

「ゴリラパンチ」を筆頭に、どの曲も5人バージョンとは違う良さがあり、たった半年でももクロはまた一皮向けたようだった。

そしてダメ押しとなったのが、ライブの終わりに1人ずつ感想を言っていく場面、百田夏菜子の言葉だった。

「国立の時だったかな?わたしみんなの前で、目の前が暗くなる時があったら、みんなが振るペンライトの明かりを頼りに進んでいくよって言ったんだけど、今回(有安が抜けて)本当に目の前が真っ暗になってしまって…」

それは、有安さんが卒業してから、それまで必死に笑顔を保ち、悲しむファンをさらに悲しませないようにやせ我慢をしてきただろう夏菜子が、初めて吐いた弱音だった。その言葉で、彼女たちがどれだけどん底に落とされてしまったのか、その気持ちを悟られないように明るく振る舞っていたのかがやっとわかり、涙が溢れた。会場全体がすすり泣いているような感じだった。

頑張れというように拍手が声があちこちから湧く中、続けて「でも今回4人でやってみて、4人でまだやりたいことも、できることもあるなって思った」と清々しい笑顔で言ったのだった。

 

夏菜子のその言葉がなかったとしても、4人のライブは素晴らしかった。有安さんが抜けたことで穴があいたような、パフォーマンスに迫力が欠けたような印象も不安定さももはやなく、4人で完璧だった。ライブが成功していた上で、さらに夏菜子が「実は苦しかったんだよ、不安だったんだよ」と本音を吐いて寄り添ったことで、わたしを含めてファンは、夏菜子と同じ気持ちだったんだと悟った。それで心をわしづかみにされたのだ。

そして最後に「お前ら全員ついてこい!」と叫んだ時、本当に本当に「ついていく!」と思ったのはわたしだけじゃなかっただろう。悲しみを吹き飛ばしてももクロが復活した瞬間だった。

夫は横で号泣していた。このまま一生悲しんでるんじゃないかと思っていたので心から安心した。

ライブ後に立ち寄った居酒屋で夫はニコニコと笑いながら「俺は、夏菜子だった」と言った。

何を言ってるんだろう?と思ったが、夏菜子と同じ気持ちで、夏菜子と同じように今日のライブで気持ちを取り戻すことができた、ということだったのだと思う。